コラム

2019.03.08

【イベント・レポート】裏アーカイブProject#2 - 広告とは人を動かすもの -


2018年11月22日(木)、アドミュージアム東京の交流スペース「クリエイティブ・キッチン」で「第2回裏アーカイブProject」が開催されました。
「広告として優れているのに埋もれたコンテンツ」=「アドミュージアム東京に収められていない裏アーカイブ」を探し出すというのが、プロジェクトのコンセプト。


今回は、電通社員でありながら広告以外のジャンルでも活躍するオルタナティブ集団「電通Bチーム」から、リーダーの倉成英俊さん、小林昌平さん(電通 エバンジェリスト、モデレーター)、キリーロバ・ナージャさん(電通 コピーライター)、牛久保暖さん(電通ビジネスデザインスクエア 事業創造室長)、そしてゲストとして、広告業界きっての論客である谷口優さん(月刊宣伝会議 編集長)、気鋭のゲームクリエイターである中野渡昌平さん(バンダイナムコスタジオ未来開発統括本部 事業プロデューサー)の6人が登壇しました。
それぞれが持ち寄ったおすすめの裏アーカイブを切り口に、「広告の本質とは何か」について議論を掘り下げていきました。さて、今回は、どんな裏アーカイブが集まったのでしょうか。
 
宿泊客を旅館の外へ! 城崎温泉の戦略のキーは「旅館の看板」
 

倉成英俊(くらなり・ひでとし)氏

まず司会を務める倉成さんが紹介したのは、志賀直哉の小説『城の崎にて』でも知られる城崎(きのさき)温泉(兵庫県)の旅館組合の看板。そこに書かれた「城崎温泉では、条例により外湯の維持、資源の保護を目的として、内湯浴槽の大きさに制限がございます。ご理解いただきまして、外湯とあわせてお楽しみ下さい」というコピーに、スポットを当てました。
実は、城崎温泉は「町ぐるみで共存共栄を図る」(倉成さん)という独自の地域戦略を実践していて、それを象徴するのが看板のこのコピー。

温泉地の大きな旅館やホテルは自家源泉を持ち、レストラン、土産物店なども併設しているケースが多いのですが、城崎温泉は違います。源泉を旅館が共同利用しているため、「各旅館は浴槽が小さくて、土産物も販売しない」(倉成さん)とのこと。なるべく宿泊客に旅館の外に出て、外湯や飲食店、土産物店を利用してもらうのが狙い。城崎温泉全体をあたかも「一つの旅館」に見立て、町全体を潤そうという戦略なのです。
宿泊客にまず看板を見てもらい、そのコピーの趣旨を旅館の女将さんが宿泊客に説明するというのは、「見事なコミュニケーションの仕組みですね」と倉成さん。
 
弱みを強みにするマジック! 「着いたその日が賞味期限」とは?
  

谷口 優(たにぐち・ゆう)氏

谷口さんが大好きと話したのは、福岡の「JALマークつき万能ねぎ」と福井の「さばずし」。弱みを逆手に取って「個性」としてアピールすれば、それが強みになり、ブランディングが可能という代表例だと言います。
福岡から空輸したねぎは割高なのですが、「空飛ぶねぎ」という印象的なコピーで、「首都圏の消費者に受け入れられました」と谷口さん。さばずしも、日持ちがしないという“弱み”を、「着いたその日が賞味期限」というキャッチフレーズで「鮮度のよさ」という価値に転換し、ネット通販で売り上げを伸ばしたそうです。

また、往々にして「ストレートに表現しないほうが伝わりやすい」と、パッケージに地元の天気予報が入っている英国のパンの事例も挙げました。「近所の工場で作っていて、鮮度も抜群」と暗に訴えているわけです。「城崎温泉の看板も同じで、『旅館の外で買い物をしてください』とあえて言わないところがミソですね」と谷口さん。

スープストックトーキョーの「スープの会社じゃなくて、世の中の体温を上げる会社です」という企業メッセージも、谷口さんのお気に入り。「従業員にそう言うようになってから、『売り上げを上げろ』と社長が檄を飛ばしていたときよりも、売上げが上がったそうです」
谷口さんは、「そのように、さまざまな形で人を動かす力を持つものが、広告ではないでしょうか」との考えを示しました。
 
「音」が記憶を呼び覚ます! 「ねるねるねるね」のCM効果音


 中野渡 昌平(なかのわたり・しょうへい)氏

「広告とは人の関心を引き付けること」と話す中野渡さんは、「記憶を呼び覚ますトリガー」になるとして、音の重要性を力説。「効果音は、ゲームの中でも人の気持ちを動かす重要な要素。アイテムをゲットしたときや敵がやってくる前に、音を出したりします。そうすると、音を聞いただけで、シチュエーションが想像できるようになったりするんですね」(中野渡さん)。さらに、自身も企画に参加した菓子「ねるねるねるね」のCMについて、その中の効果音「テーレッテレー」がネットの検索ワードにもなっている事例を紹介しました。


中野渡さんは、「お年寄りのテーマパーク」として最近大人気となっている介護施設についても取り上げました。人気の秘密は、約250種類もあるという「リハビリのためのアクティビティ」。例えば、普通の廊下を通るのではなく、頑張ってスロープを上って部屋に行くと、ミッションをクリアしたとして仮想通貨がもらえるとのこと。「この仕掛けによって、世界を小さくすることに成功したのではないか」と感心したそうです。

最近のオンラインゲームでは、世界ランキングがすぐに出るので、「なんだ、自分の順位は7万位か」とがっかりすることもザラだそうです。しかし、介護施設のリハビリなら、簡単に上位になれるので達成感が得やすく、お年寄りもやる気が出て、リハビリにも励むようになるというわけです。
「本当は、みんな井の中の蛙(かわず)でいたいんです。井戸が実は海で、その海の中で一番だって思いたいんですよ。ちゃんとそういう空間を作っているところが素晴らしいと感じました」と中野渡さん。
 
広告より深いメッセージ! 海外絵本の可能性

  
キリーロバ・ナージャ氏

ナージャさんは、海外絵本の中で興味を引かれたものを紹介しました。
『LA PLAGE』(海岸)は、チリの女の子が海岸を朝から晩まで観察し、起こった出来事をスケッチしたもの。ゲイのカップル、それを撮影している修道女といったさまざまな人物が登場し、「ダイバーシティが自然にわかる構成になっています」とナージャさん。
『LE POTAGER D'ALENA』(アレーナさんの畑)は、フランスの女の子が畑をどうやって耕すのか、野菜をどうやって栽培するのかといった仕組みを理解していくという構成で、食育にも役立つ内容。

ナージャさんは、「絵本は教科書としても使えるし、広告より深いメッセージを伝えられるものもあって、さまざまな可能性を秘めています」と話しました。
海外の絵本について、倉成さんは、「子どもに自由に考えさせるという発想で制作されているのに対して、日本では絵本も広告も型にはまった情報発信をしています。それは、つまり相手の知性を信じていないからで、このままではマズいと危機感を覚えました」とコメント。
  
最もプリミティブな広告! 最近バズった落書きとは?


牛久保 暖(うしくぼ・だん)氏

牛久保さんは、ここ10年ほどで「広告=コミュニケーション」と広告の概念が一般化されすぎて、何でもかんでもが広告の範疇に入っているとして、「広告とは広く、短く、不特定多数の人に伝えるもの」と再定義。そのうえで、「落書きこそ最もプリミティブな広告の一つだと思います」との持論を展開、気になった最近の落書きを紹介しました。

東京都港区で書かれた「FREE REFUGEES」(難民を解放しろ)というスプレーの落書きを、入国管理局が公式ツイッターに「迷惑だからやめてください」といった内容でアップしたところ、「バズった」とのこと。「ツイッターで掲載したら入管の意図に反する効果を生み、皮肉にも相手を利することになってしまった。ある種、現代的な事例ですね」と牛久保さん。
そのほか、茨城県ひたちなか市で「おひたし」という意味不明の落書きが増え、話題になっている事例や、東京都中野区で「PRETTY HONEY MEGUMI」という手作りステッカーが、大量に貼られている事例が取り上げられました。


 
ツイッターで話題! アクセスが集まる画像の秘密


小林昌平(こばやし・しょうへい)氏

小林さんは、ツイッターに投稿された画像で最近、話題になったものを紹介。
犬が人間の手を借りずに滑り台で遊んでいる動画を見て、「犬は人間の3歳児と同程度の知能があるとよく言われますが、それを実感できますね」とコメントしました。牛の群れに紛れ込んだタヌキが、牛に囲まれているところを上空からドローンで撮影した動画は、12万回も再生されたと説明。

AIが人間の顔と飛行機の排気口を間違えたという画像にも、11万回のアクセスがあったそうです。「いわゆる“ジワる”という画像。AIが間違えたというところに、ジワっときたんだと思います」と小林さん。

 
人を知らぬ間に動かすか? 感情を自然に動かすか?

倉成さんが登壇者の皆さんに「何に関心を引かれましたか」と質問したところ、「落書き」がかなりの人気。中野渡さんは、「入管が落書きを気にして、うっかり手を出してしまった心境はよくわかりますね。僕も最近、『私はメスのチンパンジーです』というメールがきて、つい返信してしまった」と打ち明けました。
谷口さんは、「今後の広告の方向性としては、城崎温泉の看板のように広い視野からさりげなく人を動かしていく方向と、落書きのようなものが作為的でなく人の感情を動かしていく方向の2つが考えられそうですね」との見解を述べました。

倉成さんは、「日本語では、広告は“広く告げる”ことを指しますが、英語で広告に当たるアドバタイジングという言葉は、“人をどこかに向かわせる”という意味です。谷口さんがおっしゃったように、“人を動かす”のが広告の本質かもしれませんね」と、第2回のプロジェクトを締めくくりました。



第2回で取り上げられた「裏アーカイブ」一覧
【倉成さん】
 ・城崎温泉旅館協同組合の案内板
【谷口さん】
 ・JALマーク入り万能ねぎ
 ・福井のさばずし
 ・「お気軽にどうぞお入りください」という看板
 ・天気予報つきパッケージに入った英国のパン
 ・スープストックトーキョーの店内写真
 ・谷口さんの子ども時代の写真(ディズニーランドに行ったときのもの)
【中野渡さん】
 ・クラシエフーズ『ねるねるねるね』のCM動画
 ・カラオケパセラ『戦隊バグレンジャー』の募集告知
 ・たんぽぽ介護センターや夢のみずうみ村てんやわんやの紹介資料
 ・NASAの火星探査機「オポチュニティ」
 ・バッグが作れるあきたこまちの袋
【ナージャさん】
 ・絵本『LA PLAGE』
 ・絵本『アレーナさんの畑(LE POTAGER D'ALENA)』
 ・絵本『MY MUSEUM』
 ・絵本『風の1年(TUULEN VUOSI)』
 ・子どもたちが描いた「子豚の家」
【牛久保さん】
 ・東京入国管理局の公式ツイッターに掲載された「FREE REFUGEES」の落書き
 ・「おひたし」の落書き(ひたちなか市)
 ・「PRETTY HONEY JUNE」「PRETTY HONEY MEGUMI」のステッカー(中野区)
【小林さん】
 ・犬が滑り台で遊んでいる動画
 ・牛の群れにタヌキが迷い込んだ動画
 ・AIが人の顔と飛行機の排気口を間違えた画像
 ・ドローンに驚いた親熊が子熊を崖から落とした動画
 ・ブルボン『ストロベリーラッシュ』の画像
 ・サカナクション『新宝島』プロモーションビデオ
 ・椎名林檎とエレファントカシマシの画像
 ・外国語っぽいお寺の名前の画像
 ・磨いて鏡にしたスマートフォンケースの画像
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