コラム

2019.08.21

【イベント・レポート】20世紀広告研究会#4 - 「ゴハン」の広告史 -


左が、「20世紀広告研究会」を主催する博報堂のスダラボ代表・須田和博氏、右が今回のゲスト・博報堂クリエイティブディレクター・高田豊造氏。

2019年5月30日(金)、アドミュージアム東京「クリエイティブ・キッチン」にて、大好評のセミナー「20世紀広告研究会」の第4回目、「“ゴハン”の広告史」が開催されました。

「20世紀広告研究会」は、博報堂のスダラボ代表・須田和博氏が、「広告の歴史」をユニークな視点でリミックスしながら、「時代を超えて通用するものは何か?」「文化としての広告とは何か?」「広告の地層に“文化”を見る」をテーマに、「面白い!」と思えるものを再発見していく連続セミナーです。

第4回目となる今回のテーマは、「“ゴハン”の広告史」。
ゲストに博報堂クリエイティブディレクター・高田豊造氏を迎え、人間の三大欲求のひとつである“食欲”に対して、「“広告”は何を食べるように日本人に勧めてきたのか?」ということを検証していきます。

開会に当って須田氏は、「“普通の食事”や“普通の食生活”をアップデートするのは、江戸・明治・大正・昭和という近代メディア史において広告が担ってきた基本的な役割で、それがアーカイブとして地層化された結果、広告がどんな食生活史を描き残してきたかを可視化するのが今日の狙いです」と語りました。
 
「ゴハン」は変わった
新しいタイプの“食”を、“広告”によって普及させる

まず振り返るのは、1960年代~1970年代の広告です。この時代は、高度成長期の真っ只中ということもあり、それまでになかった新しいタイプの“食”が、続々と誕生しています。
従って、この頃の広告主各社のテレビCMを検証していくと、「新しい食品や新しい食生活というものを“広告”によって普及させていこう」とするクリエイティブの意図が汲み取れます。

ここで題材として取り上げたのは、アドミュージアム東京のCMアーカイブを中心に、味の素「マヨネーズ」、オリエンタル「カレー・ルー」、大塚食品・レトルトカレー「ボンカレー」、丸大食品「ハンバーグ」、明星食品・インスタント麺「チャルメラ」、日清食品・インスタント麺「チキンラーメン」やカップ麺「カップヌードル」「どん兵衛」、マクドナルド「ハンバーガー」、大塚製薬「カロリーメイト」……などなど。

セミナーの参加者は20代~30代の方が多かったこともあり、誰もが初めて見るようなCMばかり。商品を“認知”させ普及させようとする、その強烈なクリエイティブに圧倒されているようでした。


オリエンタル「カレー・ルー」のCM。カレーの広告の最後に、CMキャラクターがひと言、「ハヤシもあるでよ」とハヤシ・ルーも販売していることを訴求。この、「ハヤシもあるでよ」という言葉は、当時の流行語にもなった。高田さんは「CMで最後の数秒につく『キャンペーン告知』や『〇〇が当たる』という、「ぶら下がり」と呼ばれるものを、クリエイターの先輩が教えるとき、『この新しい情報は、“ハヤシもあるでよ“でいいんだよ』と言っていました。そのくらい、オリエンタル『ハヤシもあるでよ』というフレーズは、広告業界に長く残っていた言葉なんですよね」と広告業界の裏話を披露してくれました。

特に、その当時のインスタントラーメンの広告の中で、明星食品・インスタント麺「チャルメラ」CMの、キャラクター“チャルメラおじさん” と、“ラッパが奏でるサウンドロゴ”を使った広告手法については、須田氏と高田氏がその歴史的変遷に言及。

50年の歴史がある「チャルメラ」が、その誕生時から、キャラクターとして“チャルメラおじさん”を使っていたこと。また、そのキャラクターを微妙に変化・進化させながら長く使い続けることによって、次の時代に、新しく命が吹き込まれたキャラクターになっていったこと。これこそが、CMと商品の長寿の秘訣であると説明します。

また、「食欲=生理的反応」という発想で、“チャルメラおじさん”が吹くラッパのメロディを“サウンドロゴ”と位置づけ、「音を聞いたら食べたくなる」という生活者心理を刺激するCM手法で、広告のポテンシャルを高めてきたと解説します。


さらに日本の“ゴハン”をアップデートさせた食品として、日清食品「カップヌードル」の登場は、単なる“認知”だけでなく、「食のファッション化」を目指した新たなフィールドに突入したことが須田氏と高田氏から語られました。
当時の「カップヌードル」のCMでの打ち出しは、「ファッションフード」であり「世界のブランド、カップヌードル」というもの。
これは、カラーテレビの普及とも重なり、“便利食”という訴求ではなく、「カップヌードル」という商品を、「ファッション」もしくは「新しい食のスタイル」としてデビューさせようとした信念の表れであったとの2人の見解が述べられました。

さまざま広告アーカイブを検証することで、この時代「“ゴハン”は変わった」ということが、確かにわかりました。
 会場の若い参加者からは、「1960年代~1970年代に誕生した商品自体の新しさが、当時は凄かったんだろうと思う反面、ここ20数年では、自分が見たことも想像したこともないような食べ物はありませんでした。やはり、商品自体の新しさというのが、広告以上に、そもそも相当なエネルギーとして必要なのではないでしょうか?」といった意見が出ました。

これを受ける形で、須田氏はコメントします。
「CMのアーカイブを見た上で感じていただいたように、新しい時代がきたら新しいものを食べる、そして、新しい食品が新しい時代を連れてくるといえます。私は先輩に、“新商品が画期的なら広告は余計なことはいなくていい”とよく教えられましたが、この時代の商品は、どれも画期的です。それぞれのCMを見て、試しに食べてみたいと思いますよね。確かに、商品のインパクトの大きさは大切で、広告の役割は、それが伝わりやすいイメージや表現をつけるサポート役かもしれませんね」

また、高田氏は、「この時代に生まれた“ゴハン”つまり、新しい食事は、まず認知してもらうことからはじまり、次に、CMで“音楽のチカラ”、つまりサウンドロゴや曲によって生活者に強烈な印象を与えて、“これを食べるのがカッコイイ!”と思うようにするという、まさしく“ファッション”としてデビューさせているものが多いといえますね」と、まとめました。
 
「ゴハン」は変わらない、「ゴハン」は愛だ!
コミュニケーションは、時代や商品の立ち位置で変わる



次は、CMアーカイブから、「ゴハン」は変わらない、ということを、まず検証していきます。
「昔から食べているものは、時代が変わっても食べる」、これは日本人ならば当たり前のことといえるでしょう。たとえば、白いご飯やお味噌汁。では、そのときの広告の役目は何でしょうか? これは、「変わらない食を、どう新しく見せるのか?」ということに尽きると思います。
ここでは、桃屋「ごはんですよ」、永谷園「お茶づけ」、味の素「Cook Do」……などのCMアーカイブが紹介されました。

味の素「Cook Do」は、CMを見ても、味の素「Cook Do」で作る「おかず」は変わっていません。しかし、1994年のCMと2016年のCMを比較すると、商品が普及するまでと定着した後、その“食”が置かれている立場が時代によって変わった段階で、CMのアプローチの仕方が大きく変わっている……ということがよくわかります。

1994年のCMでは、中華料理店の厨房で料理人が本格的に調理するシーンにスポットを当てていますが、2016年のCMでは、家庭のキッチンで料理しているシーンに変わっています。
また、1994年当時は認知率が低かった「ホイコーロー」という料理名も、2016年には、ほとんどの人が知るようになったので、CMのニュース性を高めるために「卵をかけましょう」といった食べ方の追加提案を行っています。

つまり、商品の普及期と定着期では、商品訴求のためのコミュニケーションそのものを大きく変えているのです。しかし、その「食」自体は、変わっていません。

「ポジショニングが変われば、同じ商品でもメッセージが変わり、言うべきことも変わる。だからこそ、クリエイターは時代の変化に敏感でなくてはなりません」
須田氏のこの言葉で、会場は一斉に、引き締まりました。

そして、次に、「“ゴハン”は愛だ!」を検証します。
ここで、須田氏が指摘するのは、「ゴハンとお母さん」の関係は、時代が変わっても切っても切れない、ということ。
紹介されたCMアーカイブは、ハナマルキ「だし入りおかあさん」、味の素「ほんだし」、東京ガス「お弁当メール」、サンヨー食品「サッポロ一番」……など。

どのCMも、中心的キャラクターとして“お母さん”が登場しています。中でも、サンヨー食品「サッポロ一番」のCM、「このひと手間が、アイラブユー」というコピーは、“ゴハン”を提供することそのものが愛である、ということを、端的に言い切っています。
 
CMから見えた「ゴハン」の広告史!
広告が描く“食の風景”が、その時代を伝える

スタートから1時間半、“ゴハン”の広告史を、CMアーカイブとともに振り返り、検証する時間は、瞬く間に過ぎました。

高田氏からは、最後に、このようなコメントがありました。
「食欲は生活者にとって直接的な“欲求”です。だからこそ、“ゴハン”の広告史を振り返ると、全体的にプリミティブで、シンプルで、おいしそうなもの、あまりギミックを使わずに、基本に忠実な広告が多かったように思います」

 また、須田氏は、今回のセミナーを総括する意味で、こう語ります。
「昭和、平成の広告に描かれている“食の風景”を見ると、その時代をリアルに感じることができます。令和の今の“食の風景”も、いつかそうやって振り返られる日が来るはずです。だからこそ私たちは、CMなどの広告物をきちんと未来に残す必要があります。子孫たちに、この時代の“食の風景”を見てもらい、この時代を考えるきっかけを提供していかなければならないと思います」

「20世紀広告研究会」第4回、「“ゴハン”の広告史」は、テーマが身近な「ゴハン」ということで、参加者全員が食い入るように須田氏、高田氏の話を聞いていました。 
特に、若い世代の方々が、とても真面目に日本の“食”について考えている様子が垣間見えた貴重な時間となりました。


【#04「ゴハン」の広告史 作品リスト】

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