広告界のレジェンドによるおススメ本シリーズ第4弾!
谷山雅計
(たにやま まさかず)
コピーライター/クリエイティブディレクター
1961年大阪府生まれ 84年東京大学教養学部教養学科アメリカ科卒業 同年博報堂入社
97年(有)谷山広告設立
主な仕事: 新潮文庫「Yonda?」、資生堂「TSUBAKI」、東京ガス「ガス・パッ・チョ!」、東洋水産「マルちゃん正麺」、キリンビバレッジ「生茶」、日本テレビ「日テレ営業中」など
著作: 「広告コピーってこう書くんだ!読本」、「広告コピーってこう書くんだ!相談室」宣伝会議刊
受賞歴: TCC賞、ACC賞、朝日広告賞、毎日広告賞、日経広告賞、新聞協会広告賞、アドフェストグランプリ、カンヌシルバー、クリオゴールドほか
日本文化デザインフォーラム会員
2019年4月から東京コピーライターズクラブ会長
実用書じゃなくても「アタマの実用」になる5冊
「天下御免」
早坂暁 著 | 大和書房(1985)
アタマの実用ポイント 「こんなやり方あり?やってもいいんだ!」の衝撃
70年代NHK「伝説的TVドラマ」の脚本集。10歳の1年間、この番組から浴びつづけた刺激が元でものづくりの仕事に足を踏みこんだと言いきりたい、ぼくのオールタイム・ベスト。平賀源内を主人公にした時代劇と見せかけて、そこに軽々と現代劇が侵入してくる。政治風刺、社会批評、コメディ、ミュージカルなどなどが次々となんでもありにぶちこまれシャッフルされて、それでも年間を通したストーリーラインには確かな一本の芯がある。自由という言葉を安易に使うのは好きではないが、「これこそが自由だよ!コノヤロー!」と思わず叫びたくなる大傑作。時代の事情で映像が残っておらず、いまは活字でしか楽しめないが、再読のたびに興奮し、また発見がもらえる。同世代の「ものづくり」にも、影響を受けた人は絶対に多いはず。
「落語の国から覗いてみれば」
堀井憲一郎 著 | 講談社現代新書(2008)
アタマの実用ポイント 「昔も今もどっちもありだ」を学ぶ
「広告屋ってさ、新しい新しいばかり言いすぎじゃない?古いと新しいって、甘いと辛いみたいなもので、どっちがエラいわけじゃないよ!」・・これは58歳コピーライター(ぼく)の口ぐせというか戯言だが、そんな思考に確信をくれた本。著者は有名な落語ファンだが、噺の解説本にあらず。落語という「言葉の乗りもの」を使い、ちょっと江戸時代まで足をのばして人のくらしや考え方を体験してみようという書である。「数え年がなぜ便利か」「左ききのサムライはいない」など、現代からみるとちょっとヘンとも思える習慣への考察が鋭い。ただエピソードは「落語」からもってくるので、学術的に偏らずジョークとともにすっと心に入ってくる。「昔はよかった」の懐古趣味に走らず、「いまはいまでイイよね」のバランスも見事。この一冊で200年分を往復しながら思考できる、実におトクな読み物だ。
「めぞん一刻」最終巻
高橋留美子 著 | 小学館(2007/初版1987年)
アタマの実用ポイント 「ハッピーエンド」はこうつくるの、お手本
歴史的ラブコメ漫画として名高いタイトルだが、「学べる本」という意味でこの最終巻は別格では。全15巻のラストをかざる220ページほど、ある意味驚くべきことに、ここには何の意外性もどんでん返しも存在しない。主人公のふたりが幸せになっていく過程を、丁寧に丁寧に描いていくのみ。名セリフは連発されるが、とってつけたようなモノ言いは一切ない。この人間がこう生きればこの場面でこう語るであろうという「納得」の言葉のみでつくられている。ワキ役も含め全員が幸せ、何のアクシデントも起こらず、それでこれほど泣ける。コメディのハッピーエンドといえば米映画の巨匠ビリー・ワイルダーがお手本として語られることが多く(知らない人はググってください)著者もその影響下にあるだろうが、このラストは本家に優るレベルまで到達しているのではなかろうか。
「パラダイス山元の飛行機の乗り方」
パラダイス山元 著 | ダイヤモンド・ビッグ社(2013)
アタマの実用ポイント ムダに見えることをやり続けるのは、ムダじゃない
ほとんどの人にとっては、今回の20冊で最も役に立たない本かもしれない。飛行機好きの著者が、ただただ常軌を逸して飛行機に乗り続ける話。1日11回搭乗、年間1022回搭乗、羽田からオホーツクまで行ったその飛行機で滞在せずにトンボ帰り、果ては名古屋へ仕事に行くのにフランクフルト経由!こうした読み物の先駆には内田百閒の「阿呆列車」など鉄道ものは多いが、この「阿呆」ぶりはメーターが振りきれている。しかしぼくはこの本に影響を受けた。「やってみたい!」と強く思い、著者には及ばないまでも、いまでは石垣島や稚内は普通に日帰りする(3時間くらいは向こうで楽しめる)。ある意味、「行動」におよぼした力はこの一冊がいちばんかも。先ほど「阿呆」と書いたが、実は軽妙な文章力ですこぶるワクワクする読み物に仕上がっている。さあ呆れるか、憧れるか、二つに一つ。
「Advertising is」
大貫卓也 著 | グラフィック社(2017)
アタマの実用ポイント 大貫さんとの30年の仕事が人生最大の「実用」
いままで生きてきた中で最大の衝撃は22歳のとき、大貫卓也さんとの初めての打ち合わせである。百回聞かれても、百回そう答える。人間の頭脳がこれほど高速回転する現場を、ぼくは初めて目撃した。そして、それから約30年、新潮文庫のYonda?が終了するまで毎年必ず仕事をご一緒させてもらった。だからこの本は、そういう体験すべてをひっくるめて、ぼくにとっての「キング・オブ・実用」なのである。自らの制作物に関する緻密かつ執拗な解説(この方は文章力も高い!)は、直接聞かされたことも多いのだが、数ページめくっただけで知恵熱が出そうなエネルギー量だ。自称「弟子」としてのひいき目かもしれないが、大貫さんは広告界で誰かと比較するのではなく、黒澤明や手塚治虫といった別ジャンルの巨人と同じ文脈で語られるべき人かなとも思う。モノを考えたい人、全員必読!
さらに、アタマに効く可能性がなきにしもあらずな、もう15冊
「85点の言葉」
糸井重里 著 | ネスコ(1989)
アタマの実用ポイント 世界一(?)簡潔なコピー指南
萬流コピー塾の単行本シリーズの一冊だが、糸井さんによる短い書下ろし「コピー論エッセイ」がオマケについていて、この部分が秀逸すぎる!とくに「三つの花束」の一文。博報堂時代、ずっとデスクの前に貼りつけて読み返した。
「流れ舟は帰らず 木枯し紋次郎ミステリ傑作選」
笹沢佐保 著 | 東京創元社(2018)
アタマの実用ポイント 本物の娯楽作家!濃密なサービス精神に感服
木枯し紋次郎は一世を風靡したTV時代劇だが、原作は数段上のレベルを行く。キャラクターの造形だけで、ハードボイルド/アンチヒーロー物として一級品なのに、そこに惜しげもなく本格ミステリの高度な謎解きをぶちこむ。いまの時代、ぜひ再評価を!
「ジェイルバード」
カート・ヴォネガット 著 | 浅倉久志 訳 | 早川書房 (1985)
アタマの実用ポイント 「座右の銘」のないぼくの、いちばん好きな言葉
言葉というものは「複数の人」をまとめるために存在すればいいから、じぶん一人にとっての座右は必要ない。そう考えるぼくだが、本作冒頭のフレーズ「愛は敗れても、親切は勝つ。」には影響を受けた。ヴォネガットは好きな本だらけだが、その理由でチョイス。
「文章読本」
向井敏 著 | 文藝春秋(1988)
アタマの実用ポイント 教えてはいない。が、「新しい名文」のショーケース
文章作法でなく、あくまで読本。もう30年前の書だが、それ以前の名文の概念から離れて、「乾いた文章」「文章の効率」などの価値に光をあててくれた点から多くを学んだ。こういう方が国語の教科書を編めばいいのに!と感じ入る。
「黄色い部屋はいかに改修されたか」増補版
都築道夫 著 | 小森収 編集 | 晶文社(2012/初版1998年)
アタマの実用ポイント エッセイだが、「作家の着想法」が明瞭
名ミステリ作家兼編集者。小説にも傑作は多いが、こちらの評論集を。推理小説好きじゃない人が読んでも、作家が読者を欺き楽しませるため二重三重に「どんな工夫」をこらすかの考察は目ウロコ。高校時代のぼくのバイブルです。
「いしいひさいち 仁義なきお笑い」
河出書房新社(2012)
アタマの実用ポイント ギャグの大変革者、そしていまは常識
後世にあまりに影響を与えたものは、つぎの時代には「あたりまえ」に思える。起承転結の破壊、実名有名人の戯画化といった手法は、マンガのみならず日本のお笑いに著者がもちこんだ革命だったと感じる。朝日の4コマしか知らない人も、ぜひ。
「監督」
海老沢泰久 著 | 新潮社 (1979)
アタマの実用ポイント 文章と物語の「爽快感」ここに極まる
筋書きがないからスポーツは面白い。が、それを軽々と超える筋書きある野球物語。実在のスワローズ初優勝を下敷きにしながら、フィクションをつけ加えていく真贋の狭間を行く手法。複雑な状況を簡潔きわまりなく伝えられる文体もすばらしい。
「星の林に月の舟」
実相寺昭雄 著 | 大和書房 (1987)
アタマの実用ポイント 「創生期の熱」が頭脳を刺激する
特撮TVがうまれた時代、ウルトラQ、ウルトラマン、ウルトラセブン3大傑作の制作過程をもとにしたフィクション。5歳のじぶんは毎週「大人たちのここまでの情熱でつくられたもの」を鑑賞させてもらっていたのかと、いま頭を下げたくなる。
「こいぬがうまれるよ」
ジョアンナ・コール 著 | ジェローム・ウェクスラー 写真 | 福音館書店 (1982)
アタマの実用ポイント 「命」を見つめる冷静な視点。なぜか、泣ける
写真絵本。海外では性教育の教材にも使われるらしい。犬の大好きなぼくだが、この「ウェットな視点」をいっさい排した記録本が、盲導犬の悲しい物語よりもグッと心に来るのはなぜだろう。子ども向けと。見逃すなかれ。
「幻影の時代」
D.J.ブーアスティン 著 | 星野郁美 翻訳 | 後藤和彦 翻訳 | 東京創元社 (1964)
アタマの実用ポイント 60年後のいま、広告・マスコミの核心を再確認
メディアが変わりまくる現代でも、この古典本で指摘されたコミュニケーションの基本中の基本はずーっと通底してそこにあることに改めて驚く。大学の授業がきっかけで読んだ本の中で、最も役に立ちつづけているのがこの一冊。
「悔いあらためて」
糸井重里、橋本治 著 | 光文社 (1984)
アタマの実用ポイント 20歳のぼくにとっての「二大怪獣激突」
中身がどうこういう前に、1980年の「この二人」の丁々発止が克明に記録されているだけで貴重すぎる対談本。正直、何が話されたか以上に、ページから発せられる熱量に背中をつき動かされた記憶が生々しく残っている。
「EXPO'70」
橋爪紳也 監修 | 平凡社 (2010)
アタマの実用ポイント コンパクトだが記録本として過不足なし
あくまで個人的体験だが、9歳のときの大阪万博(近所なもので全パビリオン行きました!)は頭脳へのアミューズメントとして、至上のものだったと感じる。50年たっても、ぼくには「これが未来!」です。
「探偵X氏の事件」
別役実 著 | 王国社 (1986)
アタマの実用ポイント ジャンルを規定しがたい「X」な面白さ
名戯曲家による連作短編集なのだが、この方のなんとも独自としか言いようのないワールド。ミステリ?小咄?ショートショート?コント?寓話?童話?読み返すたびに「人間は面白いことを考えるものだよなあ」とアイデアのかけらをもらえる、アタマのお薬。
「檀流クッキング」
檀一雄 著 | 中央公論社 (1975)
アタマの実用ポイント うんちくなしレシピのみで、繰り返し読ませる「名文」
昭和の文豪による料理本の金字塔。いわゆるグルメな知識自慢と正反対の実用に徹した本なのに、何度読み返しても飽きない謎の吸引力を秘めた文章。そのレシピを台所で再現したことはほぼないが、ぼくにとっては頭のヨダレがとまらなくなる一冊。
「40過ぎてからのロック」
松村雄策、渋谷陽一 著 | ロッキングオン (1995)
アタマの実用ポイント 最高レベルの音楽評論にして、「話芸」としても秀逸
のちに実は二人が交互に書いていたと明かされる架空対談集だが、「話し言葉」として読んだときのユルくてジワジワくるおかしみは円熟の芸人のよう。鋭い音楽批評で「刺す」のではなく「しみこませる」技に感心。