コラム

2018.10.20

【イベント・レポート】「裏アーカイブProject」始動!~#1 報告


2018年7月27日(金)、現代のコミュニケーションを考える新プロジェクトが動き出しました。この日、アドミュージアム東京の交流スペース「クリエイティブ・キッチン」で行われたのは、分野を横断して集まったプロフェショナル6名と、一般参加者60名による参加型のトークイベント。そのテーマはもちろん「広告コミュニケーション」ですが、この企画では単なるマス広告ではなく、独自の異彩を放つ「裏」の広告や表現が主役。館内に収められたコレクション以外にスポットライトを当て、「オルタナティブ※1=B面のおもしろさ」を追求していきます。
※1 alternativeは、「代替の、二者択一の」という意味がある。展示される広告がA面なら、取り上げられるのはB面の広告や表現。
 
「裏アーカイブProject」とは?

第1回の今回は、「広告業界が注目しきれていない広告」を題材に、プロフェッショナル6名によるトークセッション形式での開催となりました。倉成英俊さん(電通Bチームリーダー)をリーダーに、坂井直樹さん(コンセプター/株式会社ウォーターデザイン代表)、内田剛さん(三省堂書店)、刀田聡子さん(月刊ブレーン副編集長)、飯田昭雄さん(電通Bチーム ストリートカルチャー担当)、えぐちりかさん(電通アートディレクター/アーティスト)の6名が順に「裏アーカイブ」を紹介していきます。
 
アドミュージアム東京に所蔵されていない“名作”


イベントを通したテーマは「コミュニケーション」。そして、キーワードは「真の多様性」。
広告本来の役割は、広告する対象(モノ、会社、人物など)と人をつなぐことです。つまり、その究極の目的(コミュニケーションを生み出し、拡大すること)に従えば、SNSへの書き込みやプロの介在しないPRのアイデアなど、既存の広告業界の外で生み出された“名作”が、世界中に数多く存在しているといえます。
 
アワード広告だけが、秀逸なコミュニケーションなのか?

それらに注目することで、逆説的に「広告本来のあり方や人を動かすコミュニケーションの本質が見えてくるのではないか」というのが、本プロジェクトの狙いです。

「広告に限らず、さまざまな業界で『賞を取る』『KPIを重視する』ことがサバイブの条件になっています。一方で、その評価軸がゆがんでしまっている可能性が忘れられています。コミュニケーションの本質に立ち返れば、世の中をどう『あっ!』と言わせるかという純粋さが必要なのではないでしょうか」とは、リーダーである倉成さんの言葉。

今回はどういった「裏=B面」のコミュニケーションがアーカイブされたのでしょうか。
 
倉成英俊さん推薦! 手描きの選挙ポスター


倉成さんが紹介するのは、ドイツ・モンハイム市の選挙ポスター。16歳から参政権のあるドイツでは、高校生が立候補し、市議会議員の席を獲得したそうです。その時、作られたのがお手製のポスター。

「たった1枚の手描きポスターで高校生が2議席獲得してしまう。世界ではこんなことが起きているんだ!と感じました。まさに、人を動かすコミュニケーションの本質ですよね」(倉成さん)

「誰がどう発信するか」という本質的な視点を提示してくれる事例紹介でした。
 
坂井直樹さん推薦! 死刑囚の絵、アウトサイダーアート


坂井さんは、死刑囚が描いた作品ヘンリー・ダーガーの絵画(アウトサイダーアート)を「死刑囚の絵も、アウトサイダーアートも、何かの目的があったり、賞賛を受けようと描いているものではない。一生懸命に自分のために描いているものです」と紹介。

参照:坂井直樹のデザインの深読み

登壇者の一人、内田さんは、「衝撃が強いですね。私も書店員でお客さんにインパクトを与えたいけど、この絵の衝撃は文句なしです」とコメント。

決して広告や表現のメインストリームに上り得ないものでありながら、見る人の心をゆさぶる作品群。「裏アーカイブProject」の神髄ともいえる紹介でした。
 
えぐちりかさん推薦! 10年経っても忘れない衝撃


アーティストのえぐちさんは、ファッションブランドのコレクションを紹介。

「UNDERCOVER」のインビテーションに触れて、「汚い壁と、コピーの“but beautiful”だけ。でも美しい。新しい表現はファッションやアートから生まれて、最後に広告に流れてくるような気がしています。“たくさんの人に届くけど残らないもの”よりも“ターゲットを絞って確実に忘れられないものにする”というファッションのやり方はすごく参考になる」とえぐちさん。


徹底した世界観の表現がファンを生み出す。その観点があれば、コミュニケーションはより深化していきそうです。
 
内田剛さん推薦! 体験型の感動


書店員の内田さんが紹介したのは、本に黒いカバーを付け、黒い箱から取り出す「【闇】体験BOX」。「カバーを二重にして、ボックスに入れ、そこから取り出す体験をさせる。書店をテーマパーク化したコミュニケーションの事例です」とコメント。

「購入」という行動に好奇心をそそる体験を付与したアイディアは、さまざまな分野に応用可能な提案だといえそうです。
 
飯田昭雄さん推薦!


「まずこの動画を見てほしい」とフランスのアーティスト「ZEVS(ゼウス)」を紹介した飯田さん。
2009年、ZEVSはイタリアの企業LAVAZZAのポスターからモデルの写真を切り抜き「誘拐」(つまり広告を台無しに……!)。さらに、LAVAZZAに対し50万ユーロの身代金を要求しました。これに対して、LAVAZZA側が、「ギャラリーに寄付する形で身代金を支払う」という「事件」があったのです。

「グラフィティアートはヴァンダリズム※2の方法論に則りますが、反社会的な行為に乗せたメッセージに企業が応えることで、インパクトもあり、企業価値も上がっちゃう。広告をやっている僕らから見ると本当に悔しいですよね」(飯田さん)

登壇者からは「業界でもまったく知らなかった」と驚きの声が上がっていました。
※2 vandalism。絵画、建物などを破壊、汚染する行為のこと。社会的弱者からの風刺、抵抗の手段としても用いられる。
 
刀田聡子さん推薦! プロダクトの中に見る思想


雑誌編集者の刀田さんは、アパレルEC「ZOZOタウン」の「ZOZOスーツ」を紹介。

最新技術を用い、着るだけで利用者の採寸を行うプロダクトに、「広告ではないけど、これによってZOZOタウンが単なるECではなく、ファッションテック企業であることがアピールできます。メディアにも取り上げられていて、ZOZOの目指す姿が広くPRできている」と話しました。

参照:ZOZO

プロダクトの特異性ゆえに、露出が増える。まさに、B to Cコミュニケーションの成功事例だといえるでしょう。
 
「カンヌ受賞作※3」よりも「心を動かすコミュニケーション」


今回のイベントを振り返って、「審査をするような場所じゃなくて、自分の好きなもの、10年経っても忘れないコピーを持ち寄って見せ合う場がすごく新鮮で、自分自身が楽しませてもらいました」とえぐちさん。

広告に深く携わる倉成さんは、「広告などの表現物は、普通に生活している人にしっかりと届いていることこそが正解だと改めて感じました。カンヌの審査員たちにいかにほめられるかという物差しだけでなく、“つくる側”と“生活者側”を分けないコミュニケーションを考えていきたい」と第1回「裏アーカイブProject」を締めくくりました。
※3 世界最大の広告賞、カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルのこと。


表現、コミュニケーションに対する新たな視点を開いてくれたアドミュージアム東京の「裏アーカイブProject」。情報があふれ、変化のスピードが目まぐるしい現代。だからこそ、心を震わせる「真のコミュニケーション」に出合う機会、専門を超えて語らうことで見えてくる「人間が普遍的な“よさ”を感じるコミュニケーション」に触れる機会は、極めて貴重であると感じました。今後、どういった“広告コミュニケーション”が取り上げられ、参加者が何を感じるのか、目が離せません。
第2回は2018年11月22日(木)に開催予定です。

第1回で取り上げられた「裏アーカイブ」一覧
【倉成さん】
 ・ドイツ・モンハイム市の手描き選挙ポスター
 ・陶芸家・中里隆さんのアトリエ玄関に書かれた言葉
 ・漫画『よつばと!』の帯のコピー
【坂井さん】
 ・死刑囚が描いた絵画
 ・『非現実の王国で』の作者ヘンリー・ダーガーの絵画
 ・The NewYork Timesに掲載された「水木しげるの3.11」
【えぐちさん】
 ・UNDERCOVER 2003年コレクション「SCAB」
 ・UNDERCOVER 2005年インビテーションレターのコピー“but beautiful”
 ・ANREALAGE 2010年コレクション「WIDESHORTSLIMLONG」
【内田さん】
 ・さわや書店(盛岡)の「文庫X」、三省堂書店の「【闇】体験BOX」
 ・書店の合同企画「ナツヨム」の取り組み
 ・三省堂書店員・新井見枝香さんによる「新井賞」
 ・恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』の表紙
【飯田さん】
 ・グラフィティアーティストZEVSとコーヒーメーカーLAVAZZAのやりとり
 ・現代芸術家/村上隆さんのマーケティング戦略
【刀田さん】
 ・ZOZOタウンが発売した「ZOZOスーツ」のプロダクト戦略
 ・温泉地・湯布院の礎を築いた実業家・油屋熊八の宣伝術
【参加者から】
 ・新宿駅に貼られたガムテープによる標識のフォント
 ・木梨サイクルの「デザインですけど、何か?」Tシャツ
 ・東銀座の宝石店に送られた「祝開店 ユリ・ゲラー」の花束
 ・バーチャルモデル「Shudu」
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