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マーケティング導入と実践の先駆者

マーケティングという概念が日本に本格的に紹介されたのは、1955年(昭和30年)9月、日本生産性本部(当時)の斡旋でアメリカに出掛けた第一次トップマネージメント視察団(団長:石坂泰三日経連会長・東芝会長)によってだといわれています。戦後日本の高度経済成長にとって、人々の旺盛な消費意欲を巧みに行動化させ、マス・プロダクション、マス・セールスを可能にしたマーケティングの導入は、極めて大きな意味を持っていたのです。 
 
そのようなマ−ケティングの可能性にいち早く気づき、積極的に取り組んできた先駆者の一人に吉田秀雄がいました。
「広告は科学にたった芸術である」と考え、広告が単なる勘や名人芸ではなく、科学に裏打ちされた合理的な経営活動であるべきだと主張していた吉田は、戦後間もない1948年、社長であった電通の定時株主総会報告書に添えた文書の中で、次のように述べています。
「精確な市場分析、市場調査、それを基礎とする合理的な広告計画、宣伝作戦、この計画と作戦を最も有効に表現する図案、文案、レイアウトの技術、こういったサービス部門を持ってはじめて本格的な広告代理業が成り立ちます。」
マーケティングという言葉こそ用いられていないものの、そこには既にマーケティングの導入・実践を視野に納めた、吉田の広告界再生への青写真があったことが分かります。
 
マーケティングへの関心が高まり始めて間もない1956年9月、電通は月刊「マーケティングと広告」を創刊しました。
その創刊の言葉で吉田は、「マーケティングに対する考え方と、技術について、わが社は終戦直後、既にその重要性に着目し、マーケティングの基礎ともいうべき市場調査技術の導入に始まる一連の広告理論ならびに技術の展開普及に努力を傾けてきた」と述べ、マーケティング導入と実践の先駆者としての立場を明らかにしています。
 
マーケティングに対する吉田の取り組みは、単に電通内に留まることなく産業界全体に及びました。
創刊当時の「マーケティングと広告」を見ると、その後のわが国のマーケティング界を担った気鋭の学者や産業人が競って寄稿しており、その一企業に偏しない編集姿勢からは、産業界全体に向けられた吉田の意識の高さを読み取ることができます。
また、日本生産性本部や日本マーケティング協会、広告関係団体等が行なうマーケティングおよび広告の理論研究に対しては、電通から資金、人材、場所等を提供し、物心両面の協力を行なっています。
 
1960年9月、吉田は日本生産性本部による第6次トップマネージメント視察団に参加し、米国各地を視察、併せてスタンフォード大学、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学等を訪問しました。
しかし帰国後、彼は「全般的にいって、マネージについて学ぶところはほとんどなかった。すでにわれわれが考え、実施していることをもっともらしく説明しているにすぎない。」と視察の印象を語っています。
この言葉からも分かるように、吉田は当時最先端にあったアメリカのマーケティングの本質を見抜き、期待していたアメリカの新しい経営思想が、既に壁に直面しつつあったことを感じとっていたのかもしれません。
 
それでは、吉田は何故、アメリカのマーケティングに着目し、その導入と実践に先陣を切って取り組んだのでしょうか。
その最大の理由は、1950年代から進行しつつあった、わが国の貿易自由化の機運の高まりでした。
彼は「自由化によって必然的に国際経済戦争が激化する。その前衛戦がマーケティング競争だ。そして、間違いなく米国の先進的マーケティング・エージェンシーがわが国の市場に参入し、日本の広告代理業の代表的存在である電通が、欧米広告代理業の集中砲火を浴びる。」と、そう考えたのです。
そうした危機意識が、電通自身をマーケティング・エージェンシーに変身させ、リーダーシップを取ってわが国の広告界を護り、日本経済の発展に貢献しようという吉田の原動力であったと言えるでしょう。
 
1959年7月1日から、電通が発行する広告専門紙「電通報」の題字下に「マーケティングは近代経営の積極的基調であり、広告活動はマーケティングにおける決定的要因である」というスローガンが掲げられました。
これこそ、マーケティングの導入と実践に熱い情熱を傾けた、吉田の想いの結晶ではないでしょうか。


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